Metal a la mode

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金属のイメージを変えた - 能作

鋳物の街・高岡からの発信

 日本は木の国といわれる。国土の67%が森林に覆われている土地柄だ。木がもっとも身近にある素材であったから、さまざまな研究がなされ世界一の木工技術を持つに至っている。しかし、実はまた日本は金属の国でもある。日本刀や和包丁から厚さ0.0001mmの金箔まで、日本を象徴する金属製品は少なくない。こういった伝統の金属産業が今、これまでとは異なる素材や意匠を伴って、メタルライフとでも呼ぶべき新しい潮流を生み出している。

 金属の話を富山県・高岡市から始めよう。

400年以上の歴史をもち、問屋や工房が軒を連ねる「鋳物の街」として有名な高岡市の高岡銅器は、銅像や仏具、梵鐘、茶道具、美術工芸品など、日本における銅器の90%以上のシェアを占めている。銅器の生産地はもちろん高岡以外にもある。しかし高岡のすごいところは、銅だけでなく、金、銀、鉄、錫、チタンなど、およそ金属と名の付くものなら何でも鋳造できる技術をもっているところだ。

ライフスタイルの変化に伴い仏具や梵鐘などの需要は減る一方だったのだが、高岡には今、伝統工芸だけではない新しい金属デザインの流れが生まれて、テーブルウエアやインテリア製品を中心とする製品が都会の人々の暮らしに入り込みつつある。その先駆的な役割を担ったのが、鋳造メーカーの一つ、能作だ。

「自分たちが作る商品がどういう使われ方をしているのかわからない。問屋さんを通しての販売をしてきたからです。そのためモノをまず新しくデザインして県外から始めたのです。」と、能作の社長・能作克治さんはいう。

最初、社長自ら自分でデザインして真鍮で作ったベルは売れなかった。しかし店頭販売員の「音がきれいだし風鈴にしたらどうですか?」のひと言で風鈴を作ったところ、それが爆発的に売れた。販売の現場の人たちの声をきき、外部のデザイナーを積極的に起用し、自由な発想で金属の新しいプロダクツを生み出すのも能作のスタイルだ。

たとえば、抗菌作用もある錫100%の食器を作ろうとしたのだが、100%の錫は軟らかく、力を入れると曲がってしまう。強度を保つためには肉厚にしなければならないが、そうすると材料費がかかり価格があがる。半年程悩んだが、解決の道はデザイナーの「曲がるのなら曲げて使えばいいんじゃない?」のひと言だった。能作のKAGOシリーズは、加工が難しい純度100%の錫の軟らかさを逆手にとって、くにゃくにゃと手で曲げて自分の使いやすい形に変えられる金属の籠だ。金属は硬く冷たいという一般ユーザーの固定観念を覆したこれらお商品はたちまち注目され、ヒット商品となった。

砂の中から現れた金属は神々しい

 高岡の戸出工業団地にある能作の工場を訪れる。

40代では高齢の部類という能作の工場では若者たちが黙々と作業をこなしている。能作では伝統的な砂型を使って鋳造を行っている。女性の鋳物師もいて砂にまみれながら、型をつくっていく手の動きが美しい。プロの職人の動きはみなそうだ。きけば鋳物師に憧れてこの世界に入ってきたという。

鋳造とは、型に溶けた金属を流し込んで冷えて固まったら取り出す金属成形の方法だ。四角い金属または木製の枠に鋳物砂と粘土を混ぜた砂を入れ、道具や手足を使って原型を押し固める。原型を外したものが砂型で、上型と下型に分かれている。砂型には金属が砂型から取り出しやすいように白い剝離材がかけられる。中空となる部分にはやはり原型からつくった中子(なかご)を入れる。そして、中子を含む上下を合わせた砂型に溶けた金属を流し込むのだが、そこには金属の流れる「湯道」という細い通路が設けてある。作るものが複雑な形になればなるほど、湯道もまた金属の流れを考慮して複雑になるので砂型もそれだけ正確につくらなければならず、そこには熟練した職人の技を要する。下手をすれば、金属が隅々まで行きわたりきらなかったり、厚みが不均一なものができてしまう。

 溶鉱炉から溶けた合金を取り出す作業が行われている。

正確に温度を測り、取り出した真っ赤になった金属は湯口から砂型に流し込まれていく。私たちには箱の中にただ吸い込まれるようにしか見えないが、彼らには真っ赤な金属が砂型の中を隅々まで流れていく様子が透けるように見えているのかもしれない。

ほどなく冷め、砂型はすぐに取り壊される。黒い砂にまみれて真鍮の鈍い金色が形を現す。それは厚い雲が空を覆う夜に一瞬雲間から姿を見せた月のような神々しさをどことなく漂わせている。表面はざらざらとした砂型ならではの手触りだ。この質感を生かしたままにしてもいいし、磨けば光り輝く金属製品になる。

 能作は「メゾン・エ・オブジェ」など海外の見本市やギフトショーなどでも新作を発表し、金属製品のトレンドをつくり、世界に発信し続けている。

「著名なデザイナーに頼めばいいというものではないんです。デザイナーと作り手と売る者が同じ目線でないとろくなモノ作りはできません。『モノ』と『コト』と『心』を伝えないといけない。歴史や文化、そういう意味で私たちには伝統がある。その強みを生かして行きたいと思います」

能作のテーブルウエアには、伝統に培われた職人たちの技とモノ作りの精神が、新しいデザインと幸福な形で結びついている。

能作克治 のうさくかつじ

1916年創業の高岡銅器のメーカー「能作」の代表取締役社長。伝統産業として従来の仏具や茶道具を作り続ける一方で、ユニークな発送とデザインのテーブルウエアやインテリア製品を開発・提案し、世界に注目される。

Collaboration with KATEIGAHO INTERNATIONAL EDITION

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