Metal a la mode

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金属の町・燕三条が今提案するキッチンツール

燕三条が誇る究極のトング

 日本海に面する新潟県、その中ほどに位置する燕市と三条市は、国内でも有数の金属加工産地だ。燕市は磨きの技術で、三条市は鍛造の技で、それぞれ世界でもトップクラスの商品を作り続けている。少し前になるが世界的に流行したポータブル音楽プレイヤーのツルツルした面を磨いていたのも燕市の職人であった。

この燕三条、そもそも江戸時代から金属加工を始め、終戦後には日本の輸出産業のエース的存在になっていたが、いまではかつての大量生産時代からシフトし、ハイデザインの高品質キッチンツールを得意としている。なかでも面白い試みを見せているのが三条市にあるオークスだ。オークスは自社で工場や職人を抱えないアイデアプロデュース集団。オークスの社員が考えデザインした商品を、地元工場と職人が製作する。

たとえば手を汚さずに料理ができるトングは、女性ばかりのチームから生み出されたヒット商品。トングとしては高価格ながら、月に2万個を売り上げる。リーダーの石綿紀子さんは私生活でも二本のトングを両手で扱って料理をする。「炊事の時に自分の手が汚れない、第二の指が欲しかったんです。このトングがあれば脂っぽい生肉を触る時も、熱々の揚げ物をカットする時も困りません。特にこだわったのはバネのしなやかさ。女性の手のひらにフィットして自在に操れることを常に念頭におきました」

よくある二つのパーツを繋ぎ合わせた、ぱかぱかと開閉するトングではない。一枚のステンレス板が、美しい流線型を描き、女性の手のひらにすっぽりとおさまる。手の力に合わせて微妙な加減で開閉するさまはまさに第二の手指。どんな細かいものでもこのトングならつまめるが、そうした能力以上に、使用感の妙にはまってしまう。名は体を表し、「ゆびさきトング」と命名されている。

製作したのは高級トング作りで知られる燕市の田辺金具だ。ステンレスそのものにバネ製を持たせる技術は特許も取得済。バネ性の衰えも心配無用だという。「販売の前に耐久試験を行いますが10万回のテストでも全くへたりませんでした。あれ以上テストしなかったのが悔やまれるくらい。計り知れない実力ですよ」とは田辺金具の板谷一人(かずひと)さんの談。オークスも全幅の信頼を寄せ、「こうした地域の力を最大限に活かしたいので、商品はできるだけステンレスで考えるようにしています」と語る。

同じように女性だけのプロジェクトから生まれた「水切りレードル」は、女性の手のひらほどの大きさの、柄杓のようなスプーン。柄の付け根近くに穴が3つ開けられており、スプーンを柄の方へ傾ければ、排水されて具だけを簡単にすくえる仕組み。シンプルに真っすぐスプーンを持ち上げれば、穴からの排水はされないので、おたまとしての使用も可能な優れものだ。

同社で更なるヒットを記録した商品に「おろしスプーン」がある。大きめのスプーン面から起こされたおろし刃でしょうがやにんにくをおろし、スプーンとしてそのままスープや飲み物に入れてかきまぜられる。シンプルな発想ながら、ありそうでなかった商品で、一度使用すると今まで存在しなかったのが不思議なくらいだ。商品企画課の深澤孝良さんの言葉を借りれば、まさに「欲しかったけれど思いつかなかったもの」なのである。

切れ味保証付きのSUWADAの栗むき

 こうした燕三条の企画力はもちろんオークスに限ったことではない。究極に切りやすい爪切りの製造で知られる三条市の諏訪田製作所は、鍛造の技術を活かし、栗剥きバサミも製作している。

栗の外を覆う鬼皮は固く、また栗の実にしっかりと張り付いた渋皮は、剥こうとしても爪に挟まるなどして悩まされる。ナイフを使うのは滑って手を切りかねないし、渋皮のアクで手が汚れるとなかなか取れない。この厄介な栗の皮むきを劇的に楽にするのが諏訪田の隠れた人気商品「栗くり坊主」なのである。ハサミに似た握りやすい樹脂グリップの先には、研ぎ澄まされた鋼がセットされている。片方はギザギザとした刃で、ここで栗を固定する。もう片方はカミソリのような真っすぐな刃で、固定された栗の皮をすいすいと剥いでいく。少しずつ栗を回転させながら剥いていく姿は、缶切りの感覚に近いかもしれない。3個も剥く頃には慣れてくるので、力加減で渋皮を剥く厚みを調節したり、鬼皮だけを剥いたりすることもできるようになっているはずだ。

諏訪田製作所は元々「くいきり」と呼ばれる和釘の頭を切り落とす工具の製作に特化した鍛冶屋であった。転じて現在は栗剥き鋏や爪きりといった「挟んで切る」ものを製作している。「うちの会社の花形は職人です」と広報の大島奈津子さんが胸を張るように、40名という従業員を抱えた今でも、社内全体が職人気質に満ちている。「いかに使いやすくするか、切れ味を良くするか」は至上命題。既に充分な名声を得た今でも商品の改良に余念がない。そのことは工場を訪ねれば一目瞭然。過去の商品が整然と並ぶだけでなく、「鍛冶屋の色」と自分達が呼ぶ黒に塗りつぶされた作業スペースで、職人達が真摯に仕事をしており、その様子はいつでも訪問者へオープンにされているのだ。ベテランから若手への技術伝承もここではしっかりと行われており、職人への就職希望者も後をたたないという。

さて、そんな諏訪田製作所が作る栗くり坊主の刃は、優れた技術で鍛造されているので耐久性は折り紙付き。しかも渋皮のアクによる変色に備え、替え刃も付属している。刃先を保護するプラスチックの製の蓋には替え刃を収納ができ、失くす心配もない。本体にもレバー状の簡易ストッパーがついており更に安心だ。

「爪切りにしてもそうですが、壊れないので2個目を買ってもらえないのが悩みなんですよ」と社長の小林知行さんが笑うように、永く使える工夫と思いやり、品質を追求する姿勢が貫かれた、日本の誇るキッチン用品である。

Collaboration with KATEIGAHO INTERNATIONAL EDITION

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